すばらしき世界を見た

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西川監督の作品は全部見たわけでもなく、なんならむしろなんとなく避けていたフシさえあったのだけど、今回は宣伝時に公開されたシーン写真がグッときたのでずっと気になっていた。
大体においてそういう勘は冴えているので(というか勘でしか判断していないというのが正解)、これは絶対見たいなあなんて思っていたのだけど、いざ公開となったらすっかり忘れていて、たまたま映画館の前のポスター掲示で思い出したのでした。

映画が始まっておそらく本当に2分かそこらで、うわあやっぱりというか、特に産後はもう明るい話が大好きになってしまった私、もうこれは…見たかったけど見るんじゃなかった、見たくなかった、なんで見てしまったんだろうとザワザワし続けた2時間。
でもそんなことは分かりきっていたことであります。わざわざこの監督の作品を見に行った私が悪いのです。だから私のこの行動は完全に当たり屋なんですね。私が悪い。

突き放した視線、或いは冷静な観点ってある種とても意地悪さを含んでいて、今回はまさにそこにずっと揺さぶられたわけなんだけど。
それが大切なのもわかる、それこそが大事なんだとも。
でも、いいじゃないかみんながわかりやすくハッピーになったって。めでたしめでたしを見せてくれ、と思う。
しかしそれは別の監督が違うものでやればいい、というのもわかる。

だから結局私が当たり屋なだけなんです。 

そう思えるということは、おそらく全てのピースが完璧に近いものだったんだろうな。
役者さんたちは隅々まで素晴らしかった。
役所広司は本当に恐ろしく天才(という言葉がもはや追いつかないレベル)だし、緑子さんの艶っぽさったらない。大賀もさ…ずるいよね…いいよなあ。ずっちーなあ。あと六角さんの役、大好き。あんな許す力(ゆるすりょく)*1ある?虫の居所が悪いんだねって。あれ何?何あの台詞。やばい。結婚したい。

恥ずかしながら基本的に2時間ずーっと泣いてたんですけど、やっぱりあの、「あっそれは!それだけは言ってはいけない!」っていうあのシーン、あそこはもう本当にダメでしたね。でもああいう瞬間ってある。
三上が自分を慰めるように泣くこと、またお母さんとの思い出、などなど…色んな散文のような記憶にもかかわらず、思い出すと今でも3秒で泣ける。

今作は素晴らしく最高な傑作だと思うけど、「いい話」ではなかった。むしろ何度も言うように意地が悪い話だった。例えそれが事実を基にしたものだとしても。
だからこそなんだっていうのはわかっているんですけどね。でもフィクションくらい、とも思う。逆を言えば、それくらい最高に愛すべき登場人物たちだった。おそらく私が今生きている現実では中々交わらない分野の人たちだろうけど、あの映画のみんなのことが大好き。彼ら全員のことを、この先も忘れない。

*1:自分でもよくわからないけど許す力、りょく